協働ロボットを含む産業用ロボットで安全機器付きタブレットへの置き換えが進み
引き合いが急増しているIDECセーフティコマンダ™の特長と利点について、インタビューを行いました。
IDECでは、市販のタブレットに装着して、非常停止用押ボタンスイッチや3ポジションイネーブルスイッチなどのメカニカルスイッチや、有線LAN通信を可能にするなど、安全性や堅牢性・信頼性を高める「セーフティコマンダ™」シリーズを発売しています。近年の製造現場では、 わかりやすい画面表示やタッチパネルによる操作のしやすさから、市販のタブレット機器の様々な機械や設備への導入が進められています。 一方で、産業用ロボットや自律移動ロボット(AMR)など、人と機械が接近した状態で、タブレット機器のみで直接操作することは、万一の場合機械をとっさに止めることが出来ず、非常にリスクが高いと言えます。
また、産業用ロボットおよびロボットシステムの国際規格であるISO 10218シリーズに、協働ロボットの技術仕様書であるISO/TS 15066が統合される予定です。これにより、安全機能や安全機器の使用が産業用ロボットだけでなく協働ロボットにも求められることになります。 このような製造現場における使いやすさのみならず、安全性の確保に有効な、作業者のウェルビーイングを向上させる機器として「セーフティコマンダ™」は業界内で急速に注目されるようになり、問い合わせが相次いでいます。
「セーフティコマンダ™」は、産業用ロボットのティーチング 、大型装置、機械の操作制御、自動車生産ライン、搬送ラインの制御、 半導体製造装置、チップマウンタ、食品機械、包装機械などの装置制御、AGV/AMRなどのマニュアル制御などの現場で活用されています。既に導入した企業と、 テスト導入しているケースを合わせると百社以上にのぼります。
なぜ、「セーフティコマンダ™」がこれほど注目されているのか、どのような機能を持っているのか、同製品を開発した製品企画担当者にインタビューを行いました。
産業用ロボットのティーチングには、各社専用デバイスの「ティーチングペンダント」が多く利用されてきました。そして「ティーチングペンダント」には、人とロボットが接近して作業する際のリスク低減のため、 産業用ロボットおよびそのシステムの安全性について規定した国際規格であるISO・10218シリーズで、非常停止用押ボタンスイッチや3ポジションイネーブルスイッチの装着が必須とされています。
一方で、協働ロボットや無人搬送車/自律移動ロボット(AGV/AMR)などが普及しはじめ、従来のティーチングペンダントに変わり、表現力が高く操作性に優れ、比較的コストが廉価な汎用タブレットを活用するケースが増えています。 そこで課題となるのがタブレット操作の安全性です。このような表現力や操作性に優れたタブレットであっても、現場のリスク低減は必須であり、非常停止用押ボタンスイッチや3ポジションイネーブルスイッチに代表される安全機器を要求する声が高まりました。
そこで、操作性がよく、コストパフォーマンスの高いタブレットに非常停止用押ボタンスイッチや3ポジションイネーブルスイッチ、
その他、用途に応じてメカニカルスイッチ類を設置したい、というニーズに答えた最新モデルの「HT4P形」を発表しました。
Nは、「FA現場でロボットや無人搬送車(AGV)などを使用する場合、タブレットにも安全機能が必要と考えて社内規定を定めるエンドユーザーは多い。
その風潮が世界の安全規格にも反映されることになり、市販のタブレットに非常停止用押ボタンスイッチや3ポジションイネーブルスイッチを簡単に追加でき、
ハンドストラップやショルダーストラップを使って安定した操作や、Wi-Fiが使えない環境でも安心して使用可能な有線LANで通信するしくみを実現できる製品として「HT4P形」を新開発しました」と語ります。
2022年11月に発表した「HT4P形 セーフティコマンダ」の主な特長をご紹介します。
「HT4P形」は、スライド機構を搭載し、10~13インチのタブレットに簡単に装着できるよう設計されています。装着後は不用意なタブレットの取外しを防止するロック錠で固定します。
「セーフティコマンダ™」は人間工学に基づいたグリップ構造と3ポジションイネーブルスイッチの配置により、利き手を問わず、持ちやすさとタブレットの操作性を実現しています。
実際に持ってみると、自然な感覚で、かつしっかりと手にホールドし、指先の位置にイネーブルスイッチが配置されます。
ハンドストラップ(標準)とショルダーストラップ(オプション)を用意しており、手持ち操作時の落下を防止し、長時間での作業負担も軽減することが可能です。
更には、ショルダーストラップには一定以上の負荷がかかると外れる安全機能を採用し、万が一、HT4P形やストラップ等が機械に巻き込まれた場合でも、外れて危険を回避するしくみを導入しています。
回転式グリップにより、タブレットは縦・横、操作したい方向に設定して操作することが可能です。縦・横の回転は、回転ボタンを押している時のみ変更することができます。これはタブレットの自重による不用意な回転を防止するためです。
「HT4P形」には、安全規格に対応した非常停止用押ボタンスイッチが標準で装備され、いつでもロボットや機器を停止することができます。また、オプションで照光押ボタンスイッチやキーセレクタスイッチ、 ジョイスティックなどをカスタマイズで設置することも可能です。
「HT4P形」はUSB/LAN変換器が装備されており、タブレットの操作を信頼性がより高い有線LANでやりとりすることができます。また、USB Power Deliveryを内蔵しているため、 タブレットはいつでも給電できる状態となり、バッテリー切れの心配がありません。
その他、一定の条件下で落下耐性1.2mの堅牢性をクリアし、IP54の水飛沫・塵・ホコリの環境下での保護構造を兼ね備えています。
取材班 :
昨年の秋に「HT4P形」を発表し、セーフティコマンダ™としては2機種となり、ラインアップが充実しました。「HT4P形」ではどのような経緯で開発を進めたのでしょうか?
N :
一昨年の初めに「HT3P形」を発売して、導入頂いたお客様からいくつかのご要望を頂きました。
ひとつめは、比較的高額なペンダントからタブレットへ移行したいけれども、工場でのノイズの影響が懸念されるためタブレットWi-Fi機能は使用できない、という課題でした。
2つめが非常停止スイッチとイネーブルスイッチ以外に、重要な操作のためのスイッチはタッチパネルではなくて、押ボタンスイッチやセレクタスイッチなどメカニカルなものでなければ社内規定をクリアできない、という悩み。
3つめが13インチなど大画面のタブレットの方が、画面の情報量が豊富でCPUの処理速度が速い機種が多くコストパフォーマンスも高いので、大画面のタブレット機種にも対応して欲しいという意見。
これらを取り入れ、機能を充実させたのが「HT4P形」です。
取材班 :
問い合わせや引き合いが一番多いのはどのような業種からでしょうか?
N :
ロボットメーカー様からの問い合わせが一番多いです。従来、メーカーはペンダントのハードウェアやソフトウェアを一から開発生産を行ってきましたが、 これでは部品製造、開発コストが高くなってしまいます。半導体等の部品の製造終了などの影響も受けます。その都度、ペンダントの開発をし直すのでは効率が悪いので、 専用デバイスの開発ではなく、市販のタブレットをベースにする動きが加速しています。タブレットなら調達面で有利ですしコストも大幅に下げることができます。更に、 ソフトウェアの開発だけにリソースを集中できる、タブレットが新機種になってもソフトウェアはそのまま利用できる場合が多い、など多くのメリットが見込めます。
こうした理由で、多くのロボットメーカー様が、独自のティーチングペンダントから市販のタブレットと当社の「セーフティコマンダ」の組み合わせへの置き換えを検討している、という状況です。
取材班 :
産業用ロボットメーカーに注目されている理由はよくわかりました。ただ、協働ロボットなど、既にタブレットで運用しているところもありますよね・・・・・。
N :
協働ロボットと言えども、リスクアセスメントとそれに基づくリスク低減方策が必要です。現在、協働ロボットの技術仕様書であるISO/TS15066ではリスク低減が十分な場合、 3ポジションイネーブルスイッチの搭載は除外してもよいこととなっています。ただし、非常停止用押ボタンスイッチは必須です。また、リスクアセスメントはロボットシステムとして人と作業した場合を想定し 実施する必要があり、エンドエフェクタやワークが含まれないロボット単体で十分なリスク低減が実施できていることの立証は非常に困難であると考えられます。
このようなことから、今後産業用ロボットやロボットシステムの国際規格に、協働ロボットの要求事項が含まれた新たなISO・10218シリーズの発行が見込まれており、新たな安全機能や、 セーフティコマンダ™が搭載している非常停止用押ボタンスイッチや3ポジションイネーブルスイッチなどの安全機器が求められています。このようなグローバルな安全意識の高まりに対応するためには「セーフティコマンダ™」の利用が最適です。 こうした理由で、多くのロボットメーカー様が、独自のティーチングペンダントから市販のタブレットと当社の「セーフティコマンダ」の組み合わせへの置き換えを検討している、という状況です。
AGVやAMRなどの制御にはノートPCやタブレットが利用されているケースが多いですが、これらも安全性を考えてタブレット+セーフティコマンダ™を検討する企業が増えています。また、 工場内ではロボットだけでなく、大型設備等の制御盤に使われているタッチパネルをタブレットに置き換えるニーズもあります。それはコストを削減したり、利便性を向上するためです。このようなことから、 セーフティコマンダ™を試してみたいというメーカーやSIerなどの開発担当者様から問い合わせを多く頂いています。
また、既にタブレットを現場で活用している企業では、制御用途で使用することに加えてカメラ機器と組み合わせたり、マニュアルやチェックシート、 エクセルのデータなどの閲覧、メールやSNSの確認や返信・投稿などタブレットならでの汎用性の高い運用を安心して活用できる拡張ツールとしての提案もはじまっています。
私たちの生活の中でも、例えば銀行ATMや自動販売機など、これまで機械的なスイッチで操作していたものが、どんどんとタッチパネルに置き換わってきました。これは工場や製造現場で動く機器も同じ流れを辿っていて、10年前に比べてタッチパネル操作の装置は急増し、 今後さらに増えていくと見込まれています。
では、その次の操作パネルの進化はどうなっていくのかというと、タッチパネル入力・表示はそのまま継続しながら、操作パネルは機械に組みこまれる、固定されるタイプからモバイルになり、もっとフレキシブルに使え 多用途に利用可能な形に進化していくと見込まれています。特にロボットやAGV・AMRなど、多機能で作業の範囲が広く、それ自身が移動したり頻繁にシステムを変更するような装置が増えてくるなかで、操作パネルもそれに応じたものになっていくのは必然です。 そうした場合には、タブレット+セーフティコマンダ™は最適な組み合わせと言えるでしょう。
また、装置や現場から集めたデータを可視化、分析して制御にフィードバックするIoTを進化させ生産性を高めていくには、現在のタブレットで取り扱っている生産管理データと、機械や装置の制御操作に使用するタッチパネルとの距離を、もっと近づけて融合していくことが効果的です。 やはりその際にもポイントとなるのがタブレットの活用であり、もっとOT側、機械操作の側に近づいていくことです。
その点からもタブレット+セーフティコマンダ™の組み合わせは有益であり、DXやIoTの進化を実現するための解決策にもなります。 IDECは、制御と安全の専門メーカーとして、工場や倉庫、物流施設のデジタル化と安全な自動化の実現に向け、セーフティコマンダ™を通して製造現場でのタブレット活用法を進化させていきます。
なお、製造現場におけるタブレット活用と操作パネルの進化の鍵を握る最適な組み合わせ、タブレット+ IDEC製セーフティコマンダについて紹介しているホワイトペーパーも用意しております。