機械のスペックについて、納入先によって求められる仕様や要求が異なるのは当たり前。安全システムについても同様で、要求の高い業界や企業もあれば、そうでないところもあります。しかし世界の大きな流れは安全性重視の方向に進んでおり、今ある機械に安全機能の追加を求められるケースが増えています。
HR5S形はシンプルな回路構成でカテゴリ2の安全機能を実現できる安全リレーモジュールです。
そんなHR5S形を、このたびクインライト電子精工株式会社様のホットエアーシーリングマシン「QHP−A05」「QHP−A08」に採用いただきました。採用までの経緯と使った印象についてお話を伺いました。
クインライト電子精工株式会社 様は、溶着と縫製をコア技術とし、それらの自動機を開発・製造・販売する専業メーカーです。1961(昭和36)年に和歌山県和歌山市で創業。当初は家庭用・工業用ミシンが中心でしたが、化学繊維の進化・普及とともに高周波や超音波による熱の力で張り合わせる溶着機・ウェルダーにも拡大し、布の縫製からシーラー溶着まで布同士の強い接着と防水性・密閉性を実現する製品ラインアップを取り揃えています。
長年、布素材を貼り合わせる・接着させる用途に特化してきたため技術力は高く、同社の機械は服やカバン、靴といった衣料品はもちろん、自動車の内装材など大手メーカーの製造現場などで活躍し、特にアウトドア用品や高級車のシートなど専門的で高品質の見た目と高信頼性・高耐久性が求められる用途でも広く採用されています。
もともと溶着機には安全機能はほとんど付けておらず、あったとしても非常停止ボタンがある程度のものでした。溶着機は半自動機で主要操作をペダルで行うため、作業者自らの意志で停止、実行をコントロールできます。また、顕在化している危険箇所が小さいことから、特別な安全対策は不要と判断していました。これは当社だけでなく、他社の機械も同じです。
これが縫製機・溶着機業界の常識で、これまでも事故の報告はありませんでした。
ある自動車関連の取引先へ納入する際、お客様から「溶着機はプレス機であり、安全機能が必要である」と指摘を受けたのがきっかけです。溶着加工をする際にはシール材を布地に押し当てるのですが、お客様によるとその工程がプレス加工にあたり、機械としてはプレス機に分類するということでした。
当社にはその認識が無かったため、他の自動車関連のお客様にも聞いてみたところ、数社から同様の回答を得たことから安全機能が必要であることが分かりました。
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安全機能を組み込む上で問題となったのが、制御盤内の限られた設置スペースです。
以前、海外向けの他の機械では回路を二重化して安全リレーモジュールを組み込んだことがありましたが、それと同じ仕様にすると「QHP−A05」「QHP−A08」の制御盤には入りきらず、別のアプローチが必要でした。
どうしようかと考えた時に思い出したのが、以前にIDECさんと販売代理店から「二重化しなくても国際規格に準拠した安全制御ができる」と聞いていたHR5S形でした。
HR5S形はとても使いやすく、スムーズに行きました。シンプルな回路構成で、既存の制御盤内に収まり、アクチュエータやヒータを緊急遮断するための非常停止回路が国際規格に準拠できたのが良かったです。
2021年秋に開発をスタートし、2022年末には各種試験も完了して製品化でき、1年半くらいでここまで来ることができました。IDECさんの営業担当はセーフティアセッサ資格を取得していて、安全に対して知識と経験が豊富でいろいろとサポートしていただきました。
反応はとても良かったです。安全は突き詰めていくとカバーやら何やらと付属品が増えていき、結果として使いにくいものになりがちですが、今回はこれまでの形状と使い勝手はそのままに安全機能を付与できたことで、お客様にも満足していただけました。
これまで使っていた安全リレーのように、必ずしも回路を二重化しなくてもカテゴリ2でパフォーマンスレベル c の安全が実現できることが分かったので、今後は他の同じようなリスクの小さい装置にも展開していくことができると思います。
お客様の要望に応じて対応できる幅が広がり、競合他社に対しても安全機能がついていることは差別化要因になり、将来に向けて強い武器になります。
また、これまで製造・販売してきた溶着機も、お客様や見方が変えればプレス機になり、安全が求められるということが分かったのは大きな収穫でした。SDGsなど世界は従業員の安全や安心にこれまで以上の注意を払うようになっているので、これから機械の安全に対する要求は厳しくなっていくと思います。
それを早いうちに実感し、対応できるようになったのはとても良かったと思います。